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以上の結果から、湾内の流動・水塊分布は、湾口から流入出する潮汐流と湾内地形特性とのバランスにより決定されており、構造物や埋立て地を勝手に設置すれば湾内流動バランスを崩し湾全体に大きな変化をもたらす。人間の体に例えれば、手足に傷を受けても直接生命が奪われることは少ないが、心臓部や脳を直撃されれば壊滅的である。これと同様に、海域内も急所があり、循環流や渦発生の急所となるところに構造物を設置することは、湾全体の流動バランスを破壊し、自然生態系の環境に大きなダメージを与えることになる。この位置は、海図上からは決して分からない、その位置を把握するには充分なシミュレーションと現地調査が必要である。

 

4. 流況制御技術の基礎研究

大阪湾で適用した流況制御技術の研究についてはこれまで基礎研究を行ってきた。Fi8.14に示すのは閉鎖性海域におけるミチゲーション技術としての流況制御技術の研究概要である。自然の潮流エネルギーを利用

 

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Fig.14 Out line of mitigation study

 

し、湾内の循環流を制御し海水交換を促進すること、海中の上下層の鉛直混合を促進し溶存酸素の供給を図ること、河川水の拡散分布を制御し栄養塩濃度の適正配置を行うこと。以上のために流況制御できる各種工法選択と湾内配置について効果を検証してい行く研究を実施している。
Fig. 15には、湾口部地形を改変する工法の基礎研究の結果の1例である。閉鎖性海域の湾口地形を可変することで湾内の流況変化を制御するための実験である。Fig.15の左図に示すように、湾口部を湾内の水深よリ深くしたCase 1と、湾内と同じ水深としたCase 2の場合の実験を行い、その結果が右図の流況分布である。両者の結果から湾内流況の相違が明らかである。
Case 2は明らかに湾内循環流は強く海水交換が著しい。モデル海域のような閉鎖的で湾口部が深い湾では、湾口水深を浅くし、湾外からの流れと湾内の流れの交流を促進することにより、海水交換を促進出来る。湾の流動個性に合わせ、湾口部の水深を変化させることで海水交換を制御できることが明確となった。

 

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Fig.15 Change of tidal loci due to deep and shallow at bay mouth.

 

5. おわりに

以上、大阪湾の環境創造をプログラムするには、社会経済構造の変化、自然環境資源の変化等、多くの諸条件を考慮することが大切である。しかし最も重要なのは、海洋環境をどれだけ創造していくか、定量的な値を設定することである。全てが上手く共存出来ない。狭い海域での共生のための哲学も見えない。
ともかく、環境復元事業から先行していくことしかない。環境復元にはミチゲーション技術等の科学技術を用いた修復活動も重要であるが、その前に環境資源としての物理的環境容量、生態系的環境容量の把握調査が必要である。環境状況がどのように悪化しているのか。環境悪化の原因についての解明が充分かどうかを情報化し診断することが重要である。更に、環境活動の基本となる組織構成、NGO活動の基盤造りが先決である。海域周辺の社会構造の修復、産業と環境との一体化、環境政治の強化などを進めることが必要である。アメリカの「チェサピーク湾環境管理プログラム」に負けないような日本独自の大阪湾環境創造プログラムを目指したい。

 

参考文献

1. 上嶋英機:適性な海洋環境を創るミチゲーション技術の開発と課題−瀬戸内海の環境改善をめぐって−、海の情報誌 マリン、25巻1,2号、pp.38−49,1993.
2. 上嶋英機、宝田盛康:Environmental Conservation and Enhancement of the Seto Inland Sea. [Tidal flow Control as a Mitigation Measures] MEDCOAST 95, pp.1797-1804, 1995.
3. 山崎宗広 他:湾口部地形可変の基礎的研究,第48回平成8年度土木学会中国支部研究発表会発表概要集,?−8, pp.113−114, 1996.

 

 

 

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